どこの世界にも、アイドルというのはいる。ある種の閉鎖空間ともいえる学校や会社、ご近所付き合いの良い町や村、もちろん芸能界やスポーツ界、そして、犯罪者。こんな実話がある。アメリカのある州で、連続誘拐事件が起こった。被害者は女性で、彼女らの共通点は黒い髪。どの被害者も美少女だったので、犯人の目的はレイプや復讐などと見て捜査は進められた。しかし、警察の必死の捜索にも関わらず、なかなか犯人は捕まらない。そして、長い年月を経て、ようやく犯人を捕まえてみると、犯人逮捕が困難であった理由が分かった。犯人は、とてもハンサムな好青年だったのだ。証拠は十分だったので真犯人であることは間違いなかったのだが、いざ裁判が始まってみると、普通とは状況が違った。マスコミで大々的に公開されたハンサムな彼の顔を見たアメリカ中の女性が、彼に恋したのだ。もちろん、マスコミなどによって、彼の犯歴は全て伝わっている。にもかかわらず、多くの女性が一目彼の顔を見ようと裁判所に集まり、中には「確かに人を殺したかもしれないが、彼は何も悪くない」と言い出し、プロポーズする者まで居た。
詳しいことは
殺人アイドルで検索して調べてもらうとして、こういう現象は世界に少なからずある。当然ながら、これは男女逆の場合も存在する。数年前、韓国あたりで女性の詐欺師が捕まった時、彼女の美貌に魅了された男のファンが大挙して裁判所に集まった、なんてこともあった。「人は好きになる相手を選べない」という極端な例である。
こういった現象は、萌えの世界でも度々見られる。同人業界で言えば、紹介するまでもない、あの『月姫』以来のブームともいわれる『ひぐらしのなく頃に』がそれに該当する。ヒロインは健気で可愛く、誰にでも自慢できるような少女だが、ひとたびシナリオがある一線を越えると、ゲームのパッケージの通り、斧を振りかざして主人公に迫る。その怖さといったら、大きなお兄さんでさえも夜一人でプレイするのを躊躇うほどだ。このゲームに登場する他のヒロインも、その意味では大差はない。そして、2005年5月現在、その内容の凄惨さからネット上を駆け巡っている『SchoolDays』が、そういった類のゲームの代名詞となろうとしている。このゲーム、普通にシナリオを進めていく分にはそこそこ普通のゲームなのだが、これもひとたび選択肢を間違えると―――多くのプレイヤーはわざと間違えるようだが―――性的表現でもないのにR指定が付くシーンに変わってしまう。なぜ、そのようなゲームに人気が集まるのか。
とりあえず、『普通』を考えてみよう。まず、二次元かどうかは置いておいて、普通だったら、こういった類の異性とは付き合おうとは思わない。当然ながら、身の危険を感じないはずがないからだ。マゾでもない限り、の話だが。では、二次元だったらどうか、というと、確かに身の危険という意味では問題にはならないかもしれないが、それでも、ここまで注目されたり人気が集中する理由には直結しないように見える。単純に考えるとしたら「殺したいほどまでに自分のことを好きでいてくれている」だとか「こんな可愛い女の子に殺されるなんて幸せだ」などといった動機も考えられなくも無いが、これら各々の属性を持つようなゲーム―――思いつくものを上げると、一歩間違えればヒロインが全員ストーカーと化す『センチメンタルグラフィティ』とか、戦闘シム系で敵将が美女だったりするゲームだとか、排他的な雰囲気を味わえる「死」をテーマにしたゲームだとか―――それらが、そういった理由でヒットしたという話は聞かない。ヒットしたとしても、根本的な話としてシナリオが良かったからとか、キャラがよかったからとか、絵がステキだったからとか、そういった理由だったはずだ。少なくとも、猟奇的なヒロインが出ているゲームが売れる理由は、「猟奇的なヒロインに『萌える』から」であることと、「『修羅場』と呼ばれる衝撃的な展開がゲームに盛り込まれているから」であるらしいことは、これまでに分かっている。
ここで一つ、過去にヒットを出したある種のゲームと比較してみよう。最近ではやや低迷しているようだが、ある一時期、「ヒットするゲーム」といえば『泣きゲー』と相場は決まっていた。ゲームの前半で笑いを含む楽しい日常が展開され、ヒロイン個別のシナリオに入ると徐々に各キャラに感情移入できるような話を聞かされ、そしてライターが頭を捻って出した結末が待っている。ここで、中間あたりの感情移入に使われる話としては、大抵は『過去』について語られ、そしてその過去に於いて大体のヒロインが何らかの悲劇的な目にあっている。これは一つのゲームとしてあまりシナリオを長くしにくいという制約のためであり、エロゲーなのにエロ抜きでも良いとさえ言わせるほどに一部に対して感動を与えるゲームが存在しているわけだ。
口コミで広がり、ネットでブームとなって、熱狂的な信者が付く―――こういった普及のパターンの共通点を見つけ、さらに深く探ると、もっと別の物も見えてくる。上の事件の話に戻るが、ある心理学者によると、「犯罪者が外見または内面において魅力的な人間であった場合、人々の興味は「どうしてこんな人が犯罪に走ったのか」という方に向く」のだそうだ。そして、色々と考えた挙句、きっとこの人はひどい目に合った人に違いないとか、普通の人間には考えられないような大きな理由があるはずだ、などと考え、彼(あるいは彼女)を理解できるのは自分だけ、といった盲目的なことを考えた人間が、裁判所に走ったり留置所に婚姻届を送ったりしたのだ。それを踏まえると、少しだが、これらのゲームの内的な共通点を見つけられた気がする。
元来、実際の人間の魅力というのは、その人が過去にどういった経験をしてきたかで決まる。それは二次元の世界にも引き継がれていると考えてよい。つまり、ただの空っぽなキャラよりも、過去を付け加えることで魅力を増大させたヒロインのほうに人気が集まるのは道理であり、それが印象深ければ深いほどプレイヤーの感情移入は高まる。平和な世界で生きてきたプレイヤーが猟奇的なヒロインに恋できるのは、「どうしてこんな女の子がこんな残酷なことをするのだろう」ということを考えてしまうからであり、そういった自分が預かり知らないヒロインらの日常や過去を想像すればするほど、好きになる。どうして斧を振り回したりナイフを隠し持ってたりするインパクトの強すぎるヒロインでなくてはいけないのか、というと、それはまあプレイヤーの大半が単純に物事を考える方が好きな人間が多いからだということで結論付けすることにして、それでもとりあえず、現実につきあう相手は男女問わずマトモな人を選びましょう、とだけ言って今回は終わる。
管理人。